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会長挨拶

日本分析化学会 会長
量子科学技術研究開発機構
山本 博之

「分析」という言葉から,皆さんは何を思いうかべるでしょうか.物質の分析だけでなく,様々な統計データや事故・事象の原因,社会情勢,人間の心理の分析に至るまで,「分析」は自然科学に限らず幅広い言葉として用いられています.そしてそれらは,様々な違いはあってもおよそ世の中のあらゆる物質・現象などから何らか意味あるもの,必要な情報を引き出す作業,としてとらえることができるように思います.「分析」という言葉自体も,刀での切り分けが由来と言われる「分ける」,そして斤(おの)で木を裂く様子を表す「析(さ)く」の文字から成り立ち,古来より在る言葉ともいわれています.

私たちの取り組む「分析」では,自然科学の手法に基づいて物質の「現在」を明らかにし,その「未来」の予測にもつながる情報を得ることが大きな目的の一つといえます.その最も基本となる「何が(定性),どれだけ(定量)」といった情報に加え,最新の分析では一つ一つの原子やその原子を取り巻く様子を明らかにできるようになってきました.さらにはそれを三次元的に可視化する手法だけでなく,ピコ秒(10億分の1秒),フェムト秒(1兆分の1秒)など,物質の性質を司る電子の動きが止まって見えるようなわずかな時間での現象や変化を見出し「いつ,どこで」の情報まで明らかにできるようになりつつあります.
同時に分析は,日常生活で誰でも使えるような「はかり」や「ものさし」といった基準ともいうべき道具を提供する,極めて暮らしに密着した情報を提供する学問でもあります.日頃のニュースでも○○より検出された△△が××ppm含まれていることが明らかとなった・・,などといった話をしばしば耳にすることがあります.これらは正に分析化学と生活との接点の一端といえるでしょう.

私たちの学会では毎年5月頃開催される討論会,9月頃開催される年会にて会員が集い,議論と交流を深めるだけでなく,より専門的な内容で議論を行う「研究懇談会」が20近く置かれ,それぞれの懇談会での集まりを通じて活発な議論が行われています.また,研究懇談会だけでなく北海道から九州まで7つの地域に置かれた各支部において,分析に関する基礎や安全にかかる講習会などが開催されています.技術の伝承が難しくなりつつある中,社内での異動や転職などにより新たに分析に携わるようになった方,しばらく分析から離れていたような方々でも分析の基礎から安心して取り組めるような生涯教育の一端ともいうべきプログラムも用意されています.

このホームページを訪れていただいた機会に,より多くの皆さまが「分析」に興味を持たれ,会員として活動に参加されることをお待ちしています.どうぞよろしくお願いいたします.

会員の皆さま

令和5年8月より大谷肇前会長より会長を引き継ぎました山本博之です.会員数減少などによる分析化学会の困難な状況を打開し,財政的にもプラスに導いてきたこれまでの会長諸先生方の考えに沿いつつ改革を継承して参りたいと考えています.同時に,皆さまの声を耳にしつつ,「会員であることの意義を感じられる」,「会員であってよかったと感じられる」方向に向かうことも不可欠と感じています.是非皆さまとともに歩み,「分析の未来」を展望したいと思います.様々な機会をとらえ,皆さまと議論できれば幸いです.

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