魅力ある分析化学会を目指して
(公社)日本分析化学会 会長 早下 隆士
上智大学理工学部 教授
令和3年6月の総会・理事会にて,2021年・2022年度の日本分析化学会会長を拝命致しました上智大学の早下隆士です。本学会は1952年に設立され,2021年度で設立70周年を迎えました。本学会の歴代の先生方の思いを引き継いで会長に就任いたしますことは,大変光栄であるとともに,身の引き締まる思いでおります。会員の皆様,理事会構成員,および事務局の皆様のご協力をどうぞ宜しくお願い致します。
さて,当学会の会員である意義は,何と言っても分析化学に関連する最新研究について,分析化学討論会(春季開催)や年会(秋季開催)に参加し,研究発表はもちろんのこと,分析化学技術に関する意見交換を行えることや新しいアイデアをいち早く収集できることにあります。それに伴い産官学の様々な会員同士の交流はより活発なものになります。本会の機関誌「ぶんせき」で提供する分析化学の最新研究動向に関する情報,入門講座,講義,技術紹介も貴重な情報源です。本部・支部で開催される講習会やセミナーにおいては直接に基礎的な知見を得ることも出来ます。
昨今,多くの学術団体において学会運営が難しくなる中で,和文誌の廃刊があいついでおります。本会では分析化学に関わる研究者・技術者の裾野を広げる意味においても,和文誌「分析化学」の刊行を継続することは重要な役割を担っていると考えております。国際学術誌であるAnalytical Sciences誌は編集委員会の努力で2020年にはIF 2.1を達成しました。この実績はわれわれの機関誌がアジアの分析化学の基幹をなす英文誌に成長していることの現れです。国際会議に目を向けると,1年延期となり2021年10月に台湾で開催されるAsian Conference on Analytical Sciences 2020 (ASIANALYSIS 2020),日本で開催予定のInternational Congress on Analytical Sciences(ICAS 2021)があります。この他,全国7支部が主催する交流事業,各種研究懇談会の活動,学会賞,奨励賞,女性Analyst賞などの各賞の発表,次世代の若手研究者を育成するために各支部で行われている若手の会の活動など,本学会は,分析化学に関わる研究者・技術者に対し有益な交流の場を提供しています。
私の会長の任期は2年ですが,その間に特に以下の3項目の強化と促進を重点的に進めたいと考えています。
1)産官学連携の強化
年会・討論会で開催される企業研究者を中心とする産業界シンポジウムに加え,産業界と大学,国公立機関の交流を促進する産官学交流カフェや,大中小企業との分析技術を通した交流を促進する分析イノベーション交流会の全国展開を行います。より一層の産業界と大学間の交流を促進することで,企業研究者にも学会をもっと活用しようとする機運が生まれることを期待しています。
2)学会のダイバーシティーの促進
先の理事会・総会において,理事会メンバーを20名から25名に増員することが決定されました。現在,20名の理事の殆どが男性研究者です。新しい枠には,将来の分析化学会を支える女性研究者に加わっていただく予定です。時代のニーズに即した女性研究者の視点を取り入れた学会の改革は急務です。今後,女性に限らず,人種,国籍,年齢というものに捉われない多様なバックグラウンドを持つ理事を受け入れることは,学会の発展に多大なる恩恵をもたらすことと思います。
3)財政基盤の強化
現実問題として,学会の会員減少,広告収入の減少等による財政基盤の脆弱化は,学会自体の脆弱にもつながる問題になっています。会員規模に見合った運営を行うために,学会業務をスリム化し人件費の削減を進める必要があります。ポストコロナにおいては,オンライン会議を積極的に導入すると共に,会報誌の電子化や会員管理システムの新構築による各種業務の効率化を促進します。安定な財政基盤のもとで学会運営を行うことは,今後も学会の歴史を積み重ねていく上で,また,会員の活動をより良い形で社会に還元するために重要な視点であると考えています。
2021年7月1日